食品分析の役割と重要性、今こそ知っておきたいpcb廃棄物処理問題について

スーパーマーケットや商店街の食料品店から、コンビニや屋台売りのものまで、現代の日本ではありとあらゆるところで数えきれないほどの食品が販売されています。しかし、その食品の安全性を担保する食品分析に関しては、あまり知られていません。

この記事では、食品分析の役割と重要性、食品分析によって原因が究明されたpcbによる健康被害と、その後のpcbが使用された廃棄物の処理問題について解説します。


毎日安心して食べられる食事のために。食品分析の役割とは

食品分析の役割とは、毎日口にする食品の安全性を管理することです。日本では「食品衛生法」により「衛生上の危害の発生を防止し、国民の健康の保護を図る事」と定められています。つまり、食品には人体に害を及ぼすものが混入したり付着していてはいけないということです。

しかし、食品を外側から眺めただけでは、そこに何がどのくらい含まれているかはわかりません。そこで食品分析により、毒物や有害な微生物、農薬などが混入したり、残留、あるいは付着していないかを検査するのです。検査は食品ごとに日本で定められた基準に従って行われます。

海外からの輸入食品についても同様で、この基準をクリアしていないものが販売を認められることはありません。

(食品分析や検査について)

食品分析が行われる様々なケースについて

加工食品には製造年月日や消費期限、原材料のほか、含まれる栄養素の表示が義務付けられています。バランスの良い食事作りやアレルゲンの回避などに役立てられるこの表示も、食品分析により作られているものです。また、カロリーオフや塩分カット、食物繊維入りといった栄養強調表示は、一定の条件を満たさなくては許可されません。

そのために食品分析を行い、根拠となるデータを提出する必要があるのです。このほか、食中毒の疑いや購入者からのクレームなどの問題が発生した場合、その原因を突き止めるために購入された食品の分析が行われることがあります。

pcbの恐ろしさ、食品分析により原因が突き止められた謎の病気とは

食品分析の結果が、突然発生した謎の病気の原因を解明し、それをきっかけに世界に大きな変化を起こすことになった事例があります。1968年、ある会社の工場で製造されたライスオイルに毒物が混入し、深刻な健康被害をもたらしました。

人々は肌の異常や激しい頭痛、起き上がることもできないほどの倦怠感や手足のしびれに苦しみ、病院へ駆け込みます。しかし医師にもこの病気の正体がわからず、治療は困難を極めました。一方、同工場で製造された油脂を添加した飼料を与えられた鶏の大量死が多発したことで実態調査が行われ、油脂に異常があることが確認されます。

この油脂はライスオイルを製造する際に出る油滓を利用したものでした。さらに患者の治療が続けられるうち、彼らが共通して同じライスオイルを使用していたことが判明したのです。ここで患者から提出された食用油が食品分析にかけられ、その結果、pcbが含まれていたことが明らかとなりました。

pcbはPoly Chlorinated Biphenyl=ポリ塩化ビフェニルという、人工的に作られた化学物質の略語です。pcbは熱に強い、電気を通さない、変質しにくいなどの特徴があり、かつては各種電気製品の媒体や絶縁油として、また塗料などの溶剤としても多く用いられていました。

反面、pcbは人体に非常に有害な物質で、皮膚や内臓に障害を引き起こし、癌の原因となります。加えてpcbは、脂肪組織に蓄積しやすいという性質を持っていたのです。ライスオイルはその製造過程で、余分なにおいを取り除くために脱臭塔という装置を通ります。

pcbは熱媒体として、この装置の中を通る配管に封入されていました。ところが、作業時のミスにより配管の一部が破損しており、ここからpcbが漏れ出していたのです。このpcbが混入したライスオイルによる中毒症状は油症と呼ばれ、被害を訴えた人は約14,000にも及びます。

油症事件は被害の大きさ、悲惨さから世界的な注目を集め、pcbの危険性が一般にも広く認知されることになりました。

今も続くpcbによる健康被害と環境汚染問題

pcbの危険性を重く見た日本政府は、1972年に行政指導としてpcbの製造と使用を、1975年に製造と輸入を禁止とする措置をとりました。

ただしすでにpcbはあまりにも広い範囲で使用されており、規制もなかったため廃棄物や各工場からの排水による環境汚染が進んでいたのです。魚介類にも食物連鎖を通してpcbの蓄積が懸念されるため、現在も規制値に基づいた蓄積濃度の検査が断続的に行われています。

pcbによる健康被害や環境汚染問題は、決して過去のものではありません。むしろ時間の経過とともにその危険性に対する意識が風化する一方、あまりにも多くの電気製品に使用されていたため、実態がつかめなくなっているのが現状です。

例えば、学校で照明器具のコンデンサーが経年劣化により爆発、絶縁油に使用されていたpcbが飛び散って生徒が被害を受ける、という事件が2013年にも起こっています。実はこの照明器具に関しては、2001年末までに安全な製品への交換が終わっているはずでした。

しかし実際には多くの学校を始めとする施設で使い続けられているのです。照明器具の使用状況を把握することは非常に難しく、古い建築物では同様の事故が起きる可能性があります。

(再現性のある食品分析を実施するためのマニュアル)

pcbの廃絶を目指して

pcbが使用された廃棄物の処理は1976年から民間の主導により行われていましたが、処理施設の設置は地域住民に不安を与えることからなかなか進展がみられませんでした。そのため各事業者により廃棄物の保管が続けられることとなり、紛失などが懸念されていたのです。

それでも1990年代にはより安全な処理方法の研究が進み、2000年代に入ると商業としての成立をも視野に入れた技術開発が行われるようになりました。pcb廃絶の動きは国際的なもので、欧米ではpcbの処理が大きく進められています。

2001年にはPOPs条約が国際条約として採択されました。これは北極や南極にまで汚染が広がりつつあることを踏まえ、2028年を期限としてpcbを含む残留性有機汚染物質を廃絶するというものです。日本もこの条約に調印しており、pcb処理特別措置法の制定と環境事業団法の改正を行いました。

これにより、国内では政府の主導で2027年を目途とした廃棄物処理計画が策定され、環境省の管轄下に設立されたJESCOが受託処理にあたっています。

食品分析は消費者の安全な食生活のために

消費者の食に対する意識は時代を追うごとに高まり、そのニーズに応えてビタミンやたんぱく質などの含有量、添加物の有無を強調する食品も多くなっています。2020年4月1日からスタートした新しい食品表示制度では、食品分析による栄養成分表示が義務化されました。

食品分析はより正確な数値を表示し、消費者が安心して食品を購入するために、さらに重要性を増しているシステムなのです。

(栄養成分が分かる食品分析の仕事内容や食品衛生監視員に必要なスキルなどを詳しく解説)